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2011年07月04日

一袋の駄菓子

佐多稲子の「一袋の駄菓子」を読んだ。
なかなか凄い、なかなか出来た小説である。
なぜか分からないが、いわゆる「研究」は無いようだ。

文庫本の解説によれば、1935年に『文芸春秋』6月号に発表された。
いまから振り返るとわかるが、まだ敗戦まで10年以上もある、という時である。


自筆年譜によれば、この35年5月に戸塚署に検挙され、2ケ月間拘留されている。
検挙の理由は文化運動に関係したこと、らしい。
5月1日には、戦前最後のメーデーが開催されている。
佐多稲子は参加したのだろうか?
この年のはじめ頃には、天皇機関説が「問題化」してもいる。


焦点化する主人公というものが設定されていない。
強いて主人公は誰かといえば、東京の下町工業地帯の貧乏長屋に住む
小学校六年生の兵次であろうか。
この小説は、工業地帯に貧乏長屋の数ヶ月くらいの物語である。
おそらく1月から3月あたりまでだ。
貧乏長屋の生活と、兵次とその友人の義男の小学校卒業後の問題が、
重なる形で記述されている。
記述は淡々として、それほど深みのある心理の動きは示されていない。
しかし、貧乏長屋と工場との点描から、そして、貧乏長屋で起きる「事件」から、
当時の時代と社会が見えてくる。

兵次の家は子供が少ない。どうも兵次と弟だけのように読める。
これはどうしてか。
山本宣治などが関わった、労働者階級への産児調節の知識を、
兵次の両親が心得ていた、ということを暗示するのではないだろうか。
兵次はそのために、中学校へ行ける可能性があることになっている。

「一袋の駄菓子」、という題は、最後の、小工場主の妻の葬式シーンに由来する。
葬式での放鳥の代わりとして、駄菓子を詰め合わせた小さな紙包みを、
霊柩車を見送りに来た近所の貧乏長屋の子供たちや住人に放つのだ。
このシーンは、背景となっているであろう工場地帯の煙突群と共に、
映像的イメージを喚起する。
戦前のプロレタリア文学の系譜に属する小説なのにもかかわらず、
愚かにも喚起されたイメージは、寺山修司的ものだった。


タグ :佐多稲子

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Posted by 愚華 at 13:57│Comments(0)読む
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