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2011年01月13日

『とり残されて』

宮部みゆきの第2弾として、初期短編集を選んで読んでみた。

『とり残されて』(文春文庫)である。

『とり残されて』

7編の短編が収録されている。
「おたすけぶち」は民俗・フォークロア系の物語。
「囁く」は心傷・電波系。
あとの5編はいずれも異界・異次元系である。
民俗・フォークロア系の「おたすけぶち」も、一種の隠れ里がポイントであるので、「異界」といえないこともない。
純ミステリイ系はない。


少しレビューしておくと…。


「私の死んだ後に」という短編は、宮部ワールドをある程度モデル化している作品だろう。
主人公はプロ野球の投手。
不振になり些細なことで飲み屋で喧嘩し(海老蔵?!)、死にかけている。
死からの「立ち直り」が主題で、その時彼の過去の心の傷が問題となる。
その傷に関係する死者(半死者≒幽霊だが)が、彼の臨死状態の魂と交流し、
彼は浄化され生へと戻ってゆく。代わりに半死者の若い女性が完全な死へと旅立つ。
モデル化といったのは、まず野球≒スポーツが入っていること。
二つ目は、死者の残存というテーマ。
第三が、殺人や死と関係する精神的外傷というテーマ。
このあたりだ。
ただこれはもう少し作品を追うと見方が変わるかもしれない。


「たった一人」はなかなかの秀作。
主人公は若い女性でいつも見る不思議な夢に強力に囚われている。
その夢の場を探偵事務所に頼み特定してもらおうというのが物語の開始動因だ。
夢は彼女の過去と関わり、探偵事務所の所長兼調査員もその過去と深くかかわる事がわかる。
彼女は、かつてその夢の時の時、若き巡査だった所長兼調査員を、殺される「運命」から逸脱させた、というのがポイント。
魂的・心霊的現象で巡査を無意識にすくったことから歴史/現世界時空が歪み、その歪みのために彼女はたびたび意識が空白化する病理現象を起こす。
この「事実」が所長兼調査員によって明らかになった瞬間、時空の歪みがやや戻り、所長兼調査員は消滅し、「運命」の現世界時空へと修正される。
それでも主人公のなかには、所長兼調査員との記憶は残存する。
ある種パラレルワールドものだが、突き詰めて考えるとどうして記憶が残るのかは不明。不合理。
しかし、物語だから。しかも、異界ものだし。
そうした論理破綻はおくとして、それを考えずに読む分にはいい作品。


「いつも二人で」はアイディアが面白い。
若き男性の身体に、若い女の死後魂が入りこむ。
といってもそれほどどろどろして居ない。
死後魂の女が愛してしまった悪い中年男の身体に共存するための媒介として若い男が選ばれたのだ。
若い男の体には、だから、若い男の生きた魂と若い女の死後魂が共存することになり、どっちが若い男の体を支配するかでもめるところが面白い。
もう一歩やれば、いまの社会の性にまつわるルールを、相対化する作品になったんだろうな、と思う。



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Posted by 愚華 at 11:46│Comments(0)読む
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