幹彦、祇園の魔に迷う

愚華

2008年07月26日 23:23

青空文庫には長田幹彦が無い。
どうしてか理由は不明。まだ著作権が切れていないというのが大きいのかも知れない。

残念に思っていたら、ネットで読める作品もあった。
祗園のお茶屋「吉うた」のHPに長田幹彦の作品が、8点ほどアップされている。
素晴らしい。

その中に「祇園」というのがある。
自伝的小説。
ざっと読んで推定すると、1912年(明治45年)4月に
中央公論からの前借金を袂に京都へはじめて飛んできたときの話のようだ。
幹彦はこのとき「東三本木の川沿ひにある静かな信楽」に泊った、はず。
寺町の桂井さんがその日の夜にすぐに誘いにきた。
二人は信楽を出る。
おそらく今でいう河原町丸太町付近に出て、そこを寺町丸太町まで歩き、
左折して、寺町を下ったと思われる。(狭軌の京電は使わなかったようだ)
この河原町丸太町、やがて中原中也が短期間下宿する近くだ。
そばには、中也が、高橋新吉のダダイズムの詩集を見つけた古本屋があったにちがいない。
「新開町のやうに掘り崩された丸太町通から寺町の賑やかな通へ出」たと書かれている。
この年6月に広軌の市電が初めて京都市内を走るが
その工事で丸太町の拡幅や線路の敷設などをしていたわけだ。

この小説、連作の一部であるが、これだけでもなかなか面白い。
谷崎潤一郎の「朱雀日記」や「青春物語」の前の京都。
その直前の京都。そこで何を長田が観、感じたのか。
どうも、ある種の「魔」に引き寄せられたようにも読める。
(2011年9月25日)
最近見てなかったので気づかなかったが、
「よし歌」のHPは閉鎖されたようだ。

残念である。

長田幹彦の作品の「テキスト」だけでも欲しかった。
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