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2008年06月09日

谷崎潤一郎の手紙

『谷崎先生の書簡 増補改訂版』(中央公論新社、2008)を読了した。

いろいろな意味で面白く興味深い本である。
「谷崎先生の書簡」は谷崎潤一郎が中央公論社の社長嶋中雄作に宛てたもの。
前半は水上勉の解説で、64通が載っている。
この前半部は、1991年に刊行されたもので、
今回は、その後の研究での訂正と註も入っている。
後半は、谷崎研究者の千葉俊二が編集し解説したもの。
水上が編集したときに漏れた37通が扱われ、解説が施されている。

内容は、ほとんどが借金のお願い。
高級な消費生活や、家族を養うために谷崎が、四苦八苦して金を稼ぎ、
金を借りている、そのエネルギーが凄い。
借りた借金の返済として、原稿を書いているという感じ。
そうした中から、例の『春琴抄』などが誕生してくるのだから驚く。

谷崎と三人の妻のかかわりも、これらの書簡から透けてみえる。
その点を解説が、明らかにしてくれるが、そこも面白い。

解説といえば、千葉による新しいバージョンは、なかなか戦略的。
どうも、小谷野敦の『谷崎潤一郎伝 堂々たる人生』を批判しているようでもある。
千葉は、少なくとも二点ほど問題にしている。
第一は、谷崎と松子が、昭和4年時点で密通をしているという小谷野の推定。
千葉はこれを、かなりいろいろな資料を「駆使」して否定した。
小谷野の記述も読まないと判断は難しいが、千葉の批判に説得性はある。
(これは大問題。谷崎理解の根幹に関る。)
第二は、昭和10年ころ、谷崎が非凡閣と新しい全集について計画したや否やという点。
小谷野はしたといい、千葉は確認できないとする。小谷野の典拠が何かがポイントとなろう。
(これはやや瑣末問題かな…)

千葉の解説でもっとも新鮮だったのは、私家版『細雪上巻』(1944)と
いまのテキストが異なっており、その異なり方が、
アメリカ軍による占領という政治・軍事事情と絡むという指摘だ。
これからわかるのは、谷崎の場合も、手塚治虫と同様、
初出と単行本と全集と、テキストをきちんと比較しないといけない、ということだ。
大変ですよね、これは。
でも、そこから発見がいろいろ出てきそうでもある。


タグ :谷崎潤一郎

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Posted by 愚華 at 19:47│Comments(0)読む
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