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2012年02月17日

『Mystery Seller』の京都

今月発売の新潮文庫『Mystery Seller』。
2010年から11年にかけて発表された短編8本のアンソロジー。
中に2本、京都ミステリーがあったので記録しておこう。

『Mystery Seller』の京都


島田荘司の短編、「進々堂世界一周 戻り橋と悲願花」。

御手洗潔(島田荘司が造形した人物)とサトルが、堀川の一条戻り橋で、
語る、日本の近代史。
主に語るのは御手洗だが…。

戻り橋は、「千年の怨霊都市」京都のスポット。
彼岸花は、そんな「千年の怨霊都市」京都にふさわしい花ではないか、
と、御手洗は語る。

そこから、彼岸花に関わる、御手洗のロスアンジェルスでの出会いと伝聞が
紡ぎだされてゆく。

実に悲しく厳しくも壮大な物語が展開される。
戦前の朝鮮半島、戦前の東京や日高(高麗)、そして、戦後のアメリカ西海岸。
そこでの話が、1974年9月の京都とつながる、という構造だ。
朝鮮民族と曼珠沙華(彼岸花=彼岸花)の移動の物語でもある。
日本の戦争責任、侵略、植民地支配を考える時、
思考の方向を示す小説だろう。
しかも、ある種ミステリー(京都ミステリー)でもある。

ただ、物語内の、一つの謎がそのまま残されたような感じがするが…。


第二は、有栖川有栖の短編、「四分間では短すぎる」。

同志社大学がモデルであろう京都の私立英都大学の
推理小説研究会・全メンバーが、部長、江神二郎の下宿で、
飲み会=無為に過ごす会をもよおす。その様子を描いた短編。

主人公の有栖が、飲み会へ行く途中、京都駅(旧京都駅)で漏れ聞いた
隣の公衆電話での男のしゃべり。
そこから男としゃべりの内容を、推理していく「ゲーム」。その進行がストーリーの中心。

1988年の10月の京都西陣での出来事だ。
御手洗の戻り橋での語りから14年たっている。

小説中ではほのめかされもしないが、推理小説研究会のメンバー4人は、
その年(1988年)7月から8月にかけて、連続殺人事件に巻き込まれている。
(→『月光ゲーム Yの悲劇'88』)
その真犯人を指摘したのは、江神二郎。
有栖は、一緒になった短大生、姫原理代に恋し、告白するが断られる。
その傷心を抱えて元気がなかったのだ。
で、みんなで無為に過ごし、ゲームでもしようか、という趣向。

「点と線」なんかも分析して、それなりに面白い。


摩耶雄嵩の「失くしたお守り」は、架空の町、霧ヶ町での事件が描かれるが、
主人公・優斗の兄は、実家のお寺を継ぐ目的もあって、京都の仏教系大学へ行っている。
少し京都つながり。


タグ :ミステリー

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Posted by 愚華 at 19:15│Comments(0)読む
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